伊藤リペアー創業までの歴史

文字数が多いので、お時間とご興味のある方は、ご覧ください。

初めて修復の技術に出会ったのは家具店勤務時代でした。

 入社後、初めて配属されたのは卸部門でした。全国の家具店からの注文を受け付け、納品の手配、製造メーカーへの発注業務を担当しました。家具は取り扱いが難しく、物流上の事故品が一定割合で発生します。そのため運送業者の選定は地域ごとに細かく取り決めがされており、プロ中のプロの運送業者に依頼するよう神経を使うのが当たり前だと教えられました。

 その後、小売店舗に異動し、フロアマスターとして家具と格闘の日々を送っていた日々の中で、キズのある家具の運命について考えさせられたことがありました。返品の効かない品は廃棄手続きがされる事もあったのす。

"本店"の格を守る意味合いもあったのですが、B級品は居場所がない空間だったのですね。

その後、新設された品質管理部署に異動し、婚礼家具メーカーで研修を受けました。完成までの各製造工程で作業し、ノウハウについて学びました。最終研修は、修理部門でした。職人さんがキズ付いた婚礼家具に、ちょいちょいっと手を加えると、全く判らないレベルで直ってしまいました。パッと見た感じは勿論、近づいて見ても直した痕跡を見つけられない!まさに神業です。研修メンバーも必死で修理を試みますが、やればやるほど酷くなる!結局、参加した家具屋さんの中で満足に直せた人は誰もいませんでした。

 当たり前のことですが、一流の職人の技を短期間の研修で真似できる訳ないですね。しかし、この時に受けた感動的な衝撃は忘れる事が出来ず、家具のキズ修復の道につながっていきます。

 品質管理はクレームとの闘いですから、毎日、不良品との出会いがあります。その中には「キズ」も含まれるで、事務処理を終わらせてから倉庫に籠もってキズついた家具の修理をしているうちに、次第に直せる範囲が広がっていきました。帰宅する頃にはニワトリが鳴いていることもありました。

 この時、胸に秘めていた思いは、修復の技を極めれば、今まで残念に思っていた廃棄・B級品が本来の輝かしい姿を取り戻すことが出来るのではないか。何とかしてあの職人さんのように直せるようになりたい。というものでした。

 その後、新店開発に伴うプロジェクト店舗視察に同行した時のことです。そのお店には、B級品コーナーがありました。「これは、直す事が出来れば新品同様じゃないか。」「この小さなキズのおかげでこの安値とは気の毒なことだな。」そんな思いがB級品の商品に対して湧いてきました。

 深夜に家具のキズを直す日々を過ごしているうちに、いつの間にか、「よし、今から直してやるぞ」という、家具を助けるかのような思いを持つようになっていたのでした。この頃は、アフターサービスで訪問修理もできるようになっていました。 

 そんな時、テレビで「家の床に付いたキズを直す」という特集を目にする機会がありました。「家の修理」という世界があるのだなと、強い興味を持つようになり、「どんなものか、知りたいな」と思いました。

 その後、オープンした新店に異動したのですが、この思いは強まり、住宅リペアの世界に転職したのでした。

 住宅のリペアは大きな工事から小さな物まで多種多様ですが、内装関係の、主に木質系の建材キズを修理する業者は「補修屋さん」「リペア屋さん」などと呼ばれる事が多いです。

 この補修屋さんの仕事は、「立って見たときは判らないが、近くで見たら判る。しかし、全体的には気にならないくらいに直ります」というスタンスで修理している事が多いです。

 家具の場合は、「近くで目を凝らしてみても全く判らないレベル」が求められ、職人さんもそれに応える仕事をするのですが、建築の補修屋さんが劣っていると云うより、「婚礼タンスの扉の鏡板」と「床」に求められる性質の違いにより、要求される完成度にも差が出るから、そうなっている部分もあると考えるべきかなと思っています。


家具リペアと建材リペアの違い

〇家具修復の場合は、完成度が命です。一つのキズに対して手間を惜しまず、徹底的に直していきます。 一つのキズを直すのに数日以上かけることも珍しくありません。

 仕上がりは、キズが有ったことが全く判らないレベル 補修というより、修復・復元・再生というイメージです。

 婚礼家具は、基本一点物。在庫を多数保有していても、天然木を使用している以上、同じ木目のものは他になく、交換が出来ない事が前提にあるので、直す方も必死なのです。


〇建材補修の場合は、時間に制約がある中で、多くのキズを一定以上の品質で直していきます。工期を守る必要があるので、一つのキズに対して時間をかけすぎてはいけないのです。かといって、手抜きではダメ。どの仕上がりレベルでどれくらいの数をこなすのかは職人の腕前により差が出るところです。絶妙な塩梅で現場を収めることが出来るようになるには、様々な現場を数多くこなすという経験が必須です。

二つの修理の性格をまとめると

・家具修復は、繊細で完璧を求めるが故に時間がかかり、

・建築補修は、パワフルで多くのキズを目立たなくする短期勝負型という感じでしょうか

修復法について考え方の違い  素材に対する考え方の違い

 

 〇家具修復について

 家具製造の素材に対するこだわり 主役は木部にあり

 

 家具の場合は、基になる木材についてのこだわりが修復にも反映されます。

 

 婚礼タンスの扉の中央を飾る鏡板と呼ばれる部材は、実際に鏡がはめ込まれている事もありますが、板貼りであっても鏡板と呼ばれます。タンスの顔になるたいへん重要な部分です。

 

 この部分には突き板と呼ばれる、銘木を薄くスライスした板が貼られている事が多いです。これにより美しく同じ木目で統一された扉を複数作る事ができます。

 突き板は高価なものです。ある製造工場で、あまり広くない倉庫に、ある程度の原木が保管されていて、「いくらすると思う?」と尋ねられましたが、判らずにいると「〇億円になるんだよ」と教えてくれ、驚いたことがあります。

 突き板加工する原木は、どんな木でも良いわけではなく、突き板専用に見極めた木を選んで仕入れします。「今では輸入する事が多いので現地まで出向いて、美しい木目が採れそうなものを探してくるのだ。」との事でした。

 しかし、苦労して仕入れた原木も、加工してみないと実際の木目は判らず、加工してみたら使えなかった。と言うことも珍しくないそうです。歩留まりは3割ほどだそうで、殆どが日の目を見ない運命だとか。

 

 そこまでして美しさにこだわった木を使っているのですから、施す塗装も、より木目が美しく際立つようにと工夫されています。銘木にペンキを塗っては意味がないのです。

 木が主役であり、塗装は引き立て役なのです。

 

 修復の過程でも、木部の状態は一番気にされる事項です。同じ木目の扉を新たに作成することは、天然木では不可能だからです。

 傷の状態を修復職人さんに伝える時、「突き板は大丈夫です。」と伝えると、「ああそれなら何とかなるね。」という感じです。仮に突き板を破るようなキズであっても何とかしてしまうのが腕の良い職人さんの証ですが、「やってみなけりゃ、直るか判らないね。何日かかるかもやってみないと判らない。」という返事が返ってきたりします。そんな時は「ぜひお願いします」とお願いしてしまうのが一番です。その技量を知っている場合の話ですが。

 完成したタンスは何事もなかったように完璧な仕上がりで感動します。

 どうやって直しているかというと、それは秘密だったりします。しかしながら、家具修復は木部が命であるという事から、木の修復に心血が注がれ、それさえ完成すれば、塗装は引き立て役。塗装設備も充実した環境なので、もう大丈夫(実際は非常に難しい)。ということは想像に難くありません。

建築補修について

  

 建材について 

 家具同様、内装関係には木質系の建材が多く採用されています。但し、一般の住宅では木に塗装仕上げしたものよりも、表面をシート加工した建材がより多く見られるようになってきているようです。建具や開口枠などは、シート加工のものが主流ではないでしょうか。

 一方、フローリングやカウンターなど、木に塗装仕上げしたものを採用する建材もしっかりあります。

 現在、建築現場で活動する補修屋さんと呼ばれる業者は、この両方の建材をリペアする技術を修得した上で作業しているはずです。

 シートにはシート用、木塗装には木塗装用、に対応した材料と技術があります。

 しかし、部材を変える度に材料や道具を変えていたら、効率重視でリペア出来なくなります。それを解決したのが、大手リペアメーカーが提供する材料と技術です。リペア業界では、ドイツ製・アメリカ製のものが多いようです。補修屋さんの他、現場監督さんが日本製の材料を使っているのを見たことも何度かあります。この材料も直し方としては、ドイツ式やアメリカ式に準ずるものに分類できる工法でした。

 ドイツ・アメリカを比較すると、例えば、凹みキズの充填材については、どちらも樹脂を熱で溶かして埋める工法を採用していますが、アメリカ製のものがより耐久性に優れており、ドイツ製は作業効率の良さが最大の武器になっているようです。この点、アメリカ製は扱いが難しく、習熟に期間を要します。

 近年、補修屋さんは数が増えてきましたが、ドイツ製の影響も大きいようです。


建築現場での補修とは

 

 簡単に説明すると、「キズがあれば、埋めて色をつける。」ということになります。シート加工のものは印刷されているのでそれで良いのですが、木部に塗装仕上げしたフローリングはどうでしょうか。本来なら、家具修復のように木部の復元に注力すべきものですが、一つのキズに何日もかけられるでしょうか。



建築補修に採用される工法は、仕上がりと効率の折衷案である

 

 工期内にリペアを完工するためには家具修復の様に時間がかけられない。ならば、限られた時間でリペアするにはどうすれば良いか。と考えることになります。この要求に応えた独・米社製のリペア材料と技術は業界の主流になっています。

 この技術を利用して、塗装仕上げのフローリングであっても「キズがあれば、埋めて色をつける。」というシンプルな考え方で補修すると、現場は完工出来るようになります。このリペア方は「キズは隠すもの」という工程を経ています。キズを埋めた後に色をつけて隠してしまう技術だからです。

 家具の場合は、木部が命ですから、木部がパテなどで埋まって見えなくなった部分を木目書きして本物に見せかけるというやり方は基本、採りません(木部の発色と塗料の発色は性質が異なり、部分的に直したことが判ってしまうから)。

 修復の仕方の違いで双方の特徴的な塗料の使い方の違いは、 


〇家具修復は染料的な透明感のある塗装で木目を引き立てた表現をする


〇建築補修はキズを隠すため、顔料的な隠蔽力の強い塗料を用い、木目なども描き込んで表現する


この差を別の表現をすれば


 板を茶色のセロファンで透かして見たときは、木目が見え、茶色にも見えます。


 板にペンキで茶色に塗ったら、ただの茶色い板になります。木目は描かないといけません。


ということになります。


 この違いは、仕上がりに大きな影響を与えます。


 よって、建築補修屋さんの事前説明は、

 仕上がり品質について、「遠目で見れば判らないレベル、目を近づけて見れば直したことが判るレベル」フローリングの場合は「立って見たら判らないレベル、目を近づけて見れば直したことが判るレベル」と説明される場合が多いです。

 家具修復とはかなり異なる感覚です。しかし、建築補修の場合、「あのキズがここまで直った。良かった」と感謝されることで仕事の出来を判断する業者さんが多いのです。

 仕事の結果、喜んでいただけたら、それは良い仕事をしたということになるでしょう。

 家具と建材のキズについては、同一基準で考える事が出来ない部分があるのです。


 しかし、完璧さを求め続ける職人、業界が存在しているということも事実で無視することは出来ません。


 一見、同じようにも見える修復の仕事も、立ち位置の違いで修復方法まで変わってしまうのです。

 この感覚を修復の時に持っているかどうかは、職人さんの仕上がり品質に大きな影響を及ぼします。

 家具修復は木部の修復に長けており、塗装も同様、家具塗料を知り尽くした職人が塗装するので隙が無い。ただ、時間はかかるので、建築現場では対応が難しい。


 建築補修は塗料が主役。キズは隠して塗料で素材の表現をするため、何でも表現できるが、素材の質感の差はどうしても出てしまう。

伊藤リペアーが目指す

建築補修技術と家具修復技術の融合

 

 目立たなくなるだけでいいのか。本来の素材の姿に極限まで近づけた仕上げこそが理想ではないのか。

 これは、素材(木)を活かす事に重点を置き時間をかける婚礼家具の修復技術と、塗料による短時間での美観の再現に重点を置く建築補修技術の融合を目指すもので、大変難しいものになります。

  水と油のような二者を融合させた技術で修復する職人を見たことは今までありません。

  しかしながら、困難だからこそ追求する意味があると考えております。両者のいいとこ取りをした技術が確立したなら、別次元のリペアが実現出来ることになるのです。

  仕上がりを追求しながらスピード感も失わない。そんな究極の修復技術を追求する伊藤リペアーとしてご記憶に残る仕事を目指して参ります。